Sunday, August 10, 2014

DNAを編集するパワフルな新しい方法 NYタイムスのCRISPRについての記事の抄訳

少し古い(2014年3月4日に掲載)けれどNYタイムスのCRISPRについての記事を抄訳してみた。Feng Zhangがほとんど無視されているのが不可解だけれど、一般向けとしてはよくまとまった記事だと思う。


DNAを編集するパワフルな新しい方法


1980年代後半、日本の大阪大学の科学者達は、ありふれた細菌の、研究対象である遺伝子の近くに奇妙な反復するDNAの配列があるのを見つけた。彼らは、それを論文の最後のパラグラフにこう報告した。「このDNA配列の生物学的な意義は知られていない」

今やその意義は明らかになり、科学的な熱狂を引き起こしている。

そのDNAの配列は、細菌がウイルスから身を守るための、洗練された免疫システムの一部であることが分かった。そしてそのシステムは―その存在すら7年ほど前まで知られていなかったのだが―科学者達に生命の設計図を書き換える空前の力をもたらすかも知れない。

過去1年ほどの間に、この細菌のシステムを利用して、人間やその他の動植物のDNAに狙った通りの変化をさせることができることがわかってきた。

これが意味するのは、作家が言葉を変えたり、スペルミスを直したりするように、ゲノムを編集することができるということだ。これによって「どんな細胞や種のゲノムも思い通りにカスタム化」できることになるとデューク大学の生命工学の助教授であるCharles Gersbachは言う。

<中略>

この新しい道具の開発は、基礎研究の思いもよらない成果の恩恵の一例だ。15年ほど前、細菌のゲノム全部の配列を解読することが可能になった後、多くの種類の細菌が、それより10年ほど前に大阪大学で見つかったのと同じような、繰り返したDNAの配列を持っている事に科学者達は気がついた。その配列はclustered regularly interspaced short palindromid repeats、略してCRISPRと名付けられた。

でもCRISPRはなんの為にあるのだろう?2007年、ヨーグルトやチーズを作るための細菌を売る会社であるDaniscoの研究者達はCRISPRがウイルスから細菌を守っているという仮説を確認した。

CRISPRは適応性免疫システム―病原体を記憶し、同じ病原体が再び現れる事に備えるシステム―の一部である。人間の適応性免疫システムは、人が二度とはしかにかからなかったり、ワクチンが働くことの理由である。でも細菌のような単細胞生物がそんな免疫システムを持っているとは考えられていなかった。

仕組みは以下の通りだ。バクテリアのゲノムにある繰り返しDNA配列の間には、別の配列が挟まっている。これらの挟まった配列は、その細菌やその先祖を攻撃したウイルスのDNAの断片だ。それらは言わば遺伝的な指名手配写真で、そのおかげで細菌はどんな悪者に注意すればいいかがわかる。CRISPRの防御システムは、それと同じDNA配列を切ってしまうので、同じウイルスが再び現れたら、それを破壊するように働く。

もしも見た事がないウイルスが現れたら、新しいDNA配列、言わば新しい指名手配写真が取られ、繰り返し配列に挟まって、鎖の最後に付け加えられる。

このメカニズムの解明に貢献した、ノースウエスタン大学のEric J. Sontheimer教授は、CRISPR領域は「過去の侵入者を記録したテープのようだ」と言う。

<中略>

でも本当の熱狂が始まったのは2012年、Emmanuelle Charpentier(当時スエーデンのウメア大学)とJennifer A. Doudna(カリフォルニア大学バークレー校)が率いるチームがCRISPRを使って思い通りのDNAを切る方法を示した時だ。

この方法を使うためには、科学者達はDNAの化学的親戚であるRNAを作らなければいけないのだが、そのRNAの一部は、切ろうとするDNAと対応するようにデザインされている。このRNAをガイドRNAと呼ぶのだが、ガイドRNAは、Cas9という細菌の酵素と結合する。そしてガイドRNAが、それに対応するDNA配列に結合すると、Cas9がそのDNAを切断する。

細胞は切断されたDNAを修復しようとするのだけれど、多くの場合は修復が正確ではないので、遺伝子の機能を奪う、あるいは遺伝子をノックアウトする、のには十分である。遺伝子を思い通りに修正したい場合は、普通は科学者達はパッチ―切断が起きる領域と似ているけれど、望み通りの変化を含んだDNAの断片―を挿入する。細胞がDNAを修復するとき、このパッチはしばしばゲノムに取り込まれる。

細菌以外の生物でもこんなことができるのだろうか?「まるでレース開始のピストルを撃ったようなものだというのは分かっていました」とDoudna博士は言うが、科学者達は2013年の始めまでには、人間の細胞や、その他多くの動物や植物でも、この手法が使える事を示した。これらの種ではCRISPRに基づく免疫システムは存在していないのにもかかわらず。

「これまでこの手法を試してうまくいかなかった植物や動物の例は知らない」とハーバード大学の医学部の遺伝学の教授であるGeorge Churchは言う。「この手法を使えば、今までは困難だった生物でも、ゲノム工学が可能になる」

<中略>

この方法が人間に試されるには何年かかかるだろう。今の段階では、もっと調べることがある。

ノースカロライナ大学のChase L. Beiselは、CRISPRを使うと、いくつかの細菌の株の中の特定の株だけを殺す事に使えると報告した。この方法を使うと、将来は良い菌を殺さずに悪い菌だけを殺せるようになるかもしれない。

エモリー大学のDavid S. Weissは、ある種の細菌は、ウイルスではなく、自分自身の遺伝子を抑制するためにCas9を使う事で、宿主の免疫システムに見つかる事から免れていることを見つけた。

新しい発見と応用が出て来るペースは目が回るようだ。「すべては、ほぼ1年で起きた事です」とWeiss博士は言う。「とてつもないことです」

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